久住昌之さんが語る『孤独のグルメ』誕生秘話と作中で描きたいモノ

久住昌之さんが​語る​『孤独の​グルメ』誕生秘話と​作中で​描きたい​モノ

久住昌之さん第1回

サステナブルな食を展開するGREEN KEWPIEがお送りする「みんなにうれしいGREEN KEWPIEチャンネル」。4人目のゲストは漫画家でミュージシャンの久住昌之さんです。久住さんが原作を手がける『孤独のグルメ』のドラマは、シーズン10を超えるロングヒット作として国内外で人気を博しています。 第1回目はそんな『孤独のグルメ』の誕生秘話や裏話、そしてお店選びで大切にしていることなどをうかがいました。

※この記事はVoicyの対談の要約です。発言の意味を変えないように配慮して、一部省略・集約をしています。詳しくはVoicyの「 みんなにうれしいGREEN KEWPIEチャンネル 」をお聴きください。

久住昌之

久住昌之

くすみまさゆき

漫画家・ミュージシャン

1958年東京都三鷹市生まれ。1981年『かっこいいスキヤキ』でデビュー。故・谷口ジローさんが作画した漫画『孤独のグルメ』はフランス、イタリアなどのヨーロッパや、韓国、中国、台湾などのアジアでも出版。『花のズボラ飯』は2011年「このマンガがすごい!」女性部門で1位を獲得。『野武士のグルメ』は竹中直人さん・玉山鉄二さん主演でドラマ化。2019年には絵本『大根はエライ』が第24回日本絵本賞を受賞。

「グルメブームが​嫌!」から​生まれた​『孤独の​グルメ』

お二人のトークは、前田さんも大ファンだという『孤独のグルメ』の話題からスタート。日本だけでなくヨーロッパやアジアを中心に世界にも広まり、ドラマは12年以上も続く大ヒット作となりました。久住さんは「こんなにも続くとは全く思っていなかった」のだとか。

前田: どんな風に『孤独のグルメ』はスタートしたんですか?

久住: その頃(1994年・連載開始当時)最初のグルメブームっていうのがあって、“イタ飯”とかそういう言葉ができた頃じゃないかな。バブルの最後の方っていうか。こんな店を知っているとか、ここはどんなシェフがやっているとか、そういうことをいっぱい語る人がいて、そういう世間の風潮がすごく嫌だっていう編集者がいたんです。僕は全く興味がなかったので、なんで僕のところに(話が)きたのかなと思ったら、(僕が)1981年にデビューした時の漫画(『夜行』)が、夜行列車で男がお弁当を食べるっていうだけの漫画なんですよ。『孤独のグルメ』と同じですね。まあ、すごいワンパターンなんですけど。それが別にブランドとかグルメ的な要素は何も入ってなかったので、ああいう食べ方(主人公が幕内弁当のおかずをどの順番で食べていくかという物語)みたいな漫画を自分たちは読みたいって。それで、(作画は)谷口ジロー先生に描いてもらいたいって編集者が言ったんですね。谷口さんは「なんで僕がそんなの描かなきゃいけないのかな」って言ったんです。僕も「申し訳ないな」と思っていたんですよ。谷口さんはその頃『「坊っちゃん」の時代』など文士の漫画を描いて、漫画賞を獲ったりしていたので、「男が一人で何か食うだけっていうのがいいのか?」みたいな。

前田: ちょうどそのグルメブームがある中で、華やかで名前が語られるようなものではない切り口っていうところが新しかったんですね。

久住: そうですね。僕にとっては全然新しくないんですけど(笑)。

前田有紀

どんな風に『孤独のグルメ』はスタートしたんですか?

久住昌之

世間のグルメブームが嫌だという編集者がいたんです

©Masayuki Qusumi,PAPIER,FUSOSHA 2020

漫画『孤独のグルメ』の魅力の一つに、故・谷口ジローさんの緻密な作画があります。話題は、久住さんが思う谷口さんの画のすごさ、そしてドラマでどうそれを落とし込んでいるかに移ります。

前田: 改めて、画が細かく精密に描かれていますよね。

久住: 谷口先生は1コマ描くのに1日かかるのが当たり前のような作家なんで。これ(『孤独のグルメ』の1話分)は8ページの漫画なんだけど、アシスタントを2人使って1週間かかっているんですよね。ということは、1日3人で1ページしか進んでいないような状態ですよね。それだとね、原稿料をもらってもアシスタント料を払うと赤字になっちゃう。原作付きだからさらにちょっと少ないし。それでも自分がやるって決めたら、もう最後までやり通す人なんです、谷口さんは。

前田: それでも時間を省いて効率よく描いていくのではなくて、見ている人に届くように緻密に、細かく描かれていたんですね。

久住: 谷口さん曰く、この主人公(井之頭五郎)は心の中で何か言うくらいで言葉をそんなに喋らないので、だからこそその背景をきちんと描かないと、五郎の気持ちがわからないって。五郎が何を見て、どこを歩いて、どこのお店に入ったかっていうのをちゃんと描かないと、五郎の気持ちになって読めないと。そこが谷口さんのこだわり。

前田: なるほど。お店そのものだけでなく、町の風景もすごく丁寧に描かれているじゃないですか。

久住: 谷口さんのすごいところは、人物と風景と食べ物、この3つを同じレベルで描いているんですよ。どれかだけをすごく細かく描いて、どれかはすごくラフに描いているとかじゃなくて、全部静かな目線で丁寧に描いているんですよね。だから『孤独のグルメ』ってドラマになった時、僕が最初に制作者に言ったのは『谷口さんがものすごく丁寧に描いているから、何度も読んでも耐えられるし、外国の人も読んでくれる。その谷口さんの気持ちで撮ってほしい』って言ったんです。だからちゃんと町を映す時、食べ物を映す時、店の中を映す時も丁寧に。丁寧に撮るっていうのが『孤独のグルメ』だから、っていうのは言いましたね。

前田: 谷口さんの描き方をドラマの中でも表現するっていうところが大切だったんですね。

前田有紀

お店だけでなく町の風景も丁寧に描かれていますよね

久住昌之

丁寧に撮るっていうのが『孤独のグルメ』だから

心の​中だから​何を​言っても​自由!

世界中で配信されるドラマ『孤独のグルメ』において、久住さんは音楽と「五郎の心の声」を担当しているのだそう。独特な言い回しが面白くクセになる「五郎の心の中」にはどんなこだわりがあるのでしょうか。

前田: ドラマの方では、どんな風に久住さんは関わっていらっしゃるんですか?

久住: 基本的にドラマの方はスタッフがみんな店を見つけてきていて。おいしいってことより、『孤独のグルメ』の漫画に出てきそうかどうかっていう基準でみんな探してくれています。それで僕は音楽と、五郎の心の中の声(モノローグ)を直していますね。脚本家がちゃんと作った台本が僕のところに届くんですよ。五郎の心の中の声を大体直しますね。「肉がジューシー」とか「柔らかい」みたいなのは、もう(修正で)真っ赤ですね。

前田: 五郎さんはそんなこと言わない、っていう。

久住: 面白くない!心の中だから、何を言っても自由じゃないですか。そこをすごく大切にしていて、あんまり人が言わないことを言う感じ。僕が印象的だったのは、シーズン2くらいだったかな。肉料理のシュラスコを食べているシーンがあって。脚本家は本当に食べに行っているので「かみごたえがすごい」とか「肉汁がどんどん出てくるぞ」みたいなことが書いてあったんですけど、それは全部消して「かみ切るんじゃない、食いちぎるんだ」って言葉に変えて。

前田:あはは!かっこいいですね。

久住:それで、(僕が)直したものを見たスタッフたちが「あー、今回も始まったな。この感じが五郎だ」って(笑)。

前田:久住さんが手を入れられることで、より五郎さんらしくなっていくんですね。

久住昌之

五郎の心の中の自由な言葉を大事にしています

前田有紀

久住さんが手を入れてより五郎さんらしくなるんですね

さあ!​好きな​具だけON THE 麺!

ゲストのためにGREEN KEWPIEを使った料理を食べていただく「みんなにうれしいGREEN KEWPIEレシピ」のコーナー。1品目は、好きな具を好きなだけのせて作る自分だけの冷やし中華です。味付けに「植物生まれのごまドレッシング」、トッピングに「植物生まれのマヨネーズタイプ」をかけるとよりおいしく&味変に。果たして久住さんの反応は?

前田: 久住さん、冷やし中華はお好きですか?

久住: 好きですね〜。毎シーズン食べます。毎シーズンの、最初の1食目っていうのがもう大事ですね。

前田: わかります。気温が上がってきたら食べたくなりますよね。今回食べていただくのは、題して『さあ!好きな具だけON THE 麺!』というタイトルの冷やし中華です。上にのせる具は、自分で好きなものを選んでいただきます。ということでね、中央にたくさん具材が並んでいますが。

久住: なすっていうのは珍しいですね。

前田: そうなんです。ちょっと変わり種もあるので、お好きなものを取って、ご自身だけの冷やし中華を作っていただければと思います。イメージとしては、「孤独」に一人ではなくて、みんなでワイワイ楽しみながら「どれをのせようかな〜」みたいな感じで食べていただけたらと思います。味付けにはGREEN KEWPIEの「植物生まれのごまドレッシング」や黒酢だれをお好きにかけていただきます。トッピングとして「植物生まれのマヨネーズタイプ」を上からかけてもおいしいと思います。

久住: なるほど〜。(冷やし中華に)マヨネーズをかけるっていうのは、大人になってから知りましたね。たまにやるといいですよね。「え〜?」って思っていたんだけど、やってみたらおいしかった。

前田: そうですよね。じゃあさっそく、食べていただけたらと思います。

久住: うん、おいしいですね。何をのせるのかっていうのは、何人かでやっても楽しいですよね。「お、そんなののせるのか」ってね。

前田: 私、久住さんがのせるのを見ていたんですけど、かなり考えて計算してのせていく感じがしました。

久住: この冷やし中華をどう攻略するかっていう感じですからね、僕の場合はいつも。このアボカドとなすっていうのは今までない気がしますね。冷やし中華に凝ったやつをいっぱい入れたのあるでしょ、くらげとか。くらげって麺と被るし、そういうのがあると、僕はちょっと苦手なんです。もっとシンプルでいいじゃないかって。だけど、みんなで食べるっていう時は、こうやって(具が)いっぱいあるのは楽しいですね、絶対。

前田: 親子で食べたりしても楽しそうですよね。この冷やし中華の中でも、この錦糸卵風に見えているものが、「HOBOTAMA 加熱用液卵風」で作られたものなんです。色もきれいですよね。

久住: すごくおいしい。これは楽しいですね。やっぱり相手が何をのせて食べるのか見て「おいしい」とか言うと、「あ、ちょっと俺負けた」とかね(笑)。

前田: 今まで私も冷やし中華を家で作るってなると、のせたものを家族に出していたんですけど、具をまとめて「好きなの取ってね〜」っていうのを今度やってみようかなって思いました。そこでまた会話が生まれて、食卓が楽しくにぎやかになるのがいいなって。

前田:ベースの麺に黒酢だれがついているんですけど、上から具をのせた後に「植物生まれのごまドレッシング」をかけると、また味が合わさってすごく奥深くなるんです。

久住: あ、これ良い。この混ざるの、おいしい。

前田: 私は「植物生まれのマヨネーズタイプ」を最後にかけてみますね。

久住: そのマヨネーズ(タイプ)は、卵が使われていないんですか?

前田: そうです!植物生まれなので。

久住: 僕、この「植物生まれのごまドレッシング」を、しそとかを入れたサラダにかけてみたらおいしかったですね。しそとみょうがとキャベツのサラダを作ってかけたらすごくおいしかった。

久住昌之

相手がどう食べたかを見るのも楽しいですね

前田有紀

食卓が楽しくにぎやかになるのがいいですよね

すごく​普通な、​日常的な​「おいしい」を​やりたい

自分で好きなように作る冷やし中華の楽しさに、さらに話がはずむ二人。まだまだ聞きたい『孤独のグルメ』の裏話についてさらに深掘りします。

久住: 『孤独のグルメ』って、グルメって言いながら、グルメ的な食べ歩きのシーンとかないんですよ。何を食べたいからどこに食べに行こうとか、そういうのも1回もやってないんですよね。松重さんがあくまでも町を歩いていてお腹が空いて、「あ、そういえば腹が減った」って店を探すっていう物語なので、食べに行くってことはないんですよ。だからもう、すごく日常なんですね。日常の中でお腹が空いちゃって、それで食べる場所を探すっていう、そういうドラマ。僕も本当に普段食べ歩きとかしないので、店を探す時はお腹を減らして知らない町に行って、歩いて探すんですね。で、松重さんも(撮影)前日の午後ぐらいから何も食べないで、当日の撮影に臨んでいるんですよ。

前田: そうなんですね!実際に五郎さんのようにお腹を空かせた状態で臨まれているんですね。

久住: 本当に腹が減っている状態で、ドラマ通りにお腹をペコペコにして食べるんで、 何食べてもおいしい。(嘘のない)おいしい顔になるんですよ、普通に。僕らはそれがいいって思っているので。人って一人で食べる時に、家ではどうか知らないけど、お店とかで「おいしい!」なんて言わないじゃないですか。みんななんか険しい顔すらしていて、だけど心の中で「うわ、これうまいな」とか思っているわけですね。そういうのができたらいいなって思っているんです。すごく普通な、日常的な「おいしい」をやりたいんですよね。

久住昌之

日常の中でお腹が空いちゃって食べる場所を探すってドラマなんです

前田有紀

実際に五郎さんのようにお腹を空かせて(撮影に)臨まれているんですね

“迷う、​選ぶ、​食べる”を​繰り返すと​自分が​わかってくる

『孤独のグルメ』では、主人公の五郎が毎回個性的なお店に足を運んでいます。そのような魅力的なお店を、久住さん自身はどのように探しているのでしょう。

前田: お店はどんな風に探されているんですか?

久住: 漫画の(取材で行く)場合は、行ってない町を地図で探して「大井町って降りて歩いてないな」とかそういう所に、お腹を減らして行きますね。すごい歩きます。で、すっごい迷うんですよ。ここでいいのか、ここで(漫画を)描けるのかっていう。1回食べちゃうとお腹いっぱいになっちゃうから、もう2軒目がないんで。絶対成功したいと思って入りますね。

前田: うまくいく場合もあってこそ作品が生まれていると思うんですが、失敗する例もあるんですか?

久住: もちろん。店もものすごく選ぶんだけど、店に入ってから、じゃあここの何を食べるかっていうのもすごく悩むんですよ。自分はこれが食べたい気がするけど、今漫画を描こうとしているからこっちを食べたほうが漫画になるんじゃない、とか。

前田: 周りの人が食べているものをチェックしたりとか?

久住: いや、でもそれはあんまりしないです。食べてから周りの人を見て、自分が間違えていたっていうのを知ったりとか(笑)。「ああ、この店はこれ(を食べるべき)だったんだ!」みたいな。だけど、それはそれでドラマになるんです。自分がこれを食べたら、みんなあれを食べていたっていうのは面白い。そこですごく感情が動くんで。僕は、おいしそうに見えたものをおいしいって食べても何も面白くないと思うんですよ。やっぱりすごく自分が想像力を使って、これおいしいんじゃないかとか、ここではこれを頼む方がいいんじゃないかってやったのに、食べてみた時にすごく残念だったり、逆にすごくうれしかったり、「思った通りだ!読みが当たった!」みたいな、そういう心の動きが一番大事なんですよね。小さいドラマっていうのが。

前田: 自分の感覚で見つけたお店で食べてみる。そのドラマはすごく特別なものですね。

久住: そうですね。自分で探して、自分で選んで食べたらおいしかったっていう時の喜びってすごく大きいですね。それはやっぱり、そこまでに迷ったり考えたりしている部分があるから。そうすると漫画としてとか、文章としてもっと面白く描こうと思いますよね。

前田: すごくいいお話を聞けた気がします。やっぱり今は本当に情報が多くて、(情報を)見てから行ってみたいというのが増えてきている気がするので、今一度自分の感覚を信じて、食に対して向き合いたいなって思いました。

久住: そうやって自分で迷って、探して、考えて、食べるっていうのを繰り返していると、みなさんは「おいしい店を見つけるのがうまくなるんじゃないか?」っていう風に言うんだけどそれは大きく違っていて、迷って、入って、食べるをやっていくと、自分ってどういうのが好きなのかってことがわかるんですよね。自分がわかってくるんですよ。自分はどういう店が好きで、どういう味にグッとくるんだってのがわかってくる。そうすると、どんどん世の中のグルメとは離れていくんですね。情報を追っていると、いつまでたっても自分がわかんないんじゃないかと思います。

前田: 自分のことがわかれば、より食に対しても豊かにいられて、心地よくいられますよね。

久住昌之

自分で選んで食べたらおいしかった時の喜びは大きいですね

前田有紀

そのドラマはやっぱり特別なものですね

自分の​足で​探して​見つけた​自分だけの​うれしいを​集めたい

前田: 久住さん、今日はありがとうございました。自分の足で探して見つけた、自分だけのうれしいをもっと集めていきたいなって思いました。華やかなお店に行くのも素敵ですけど、その前に日常の食をより自分らしく、豊かに、心地いいものにしていきたいなと思います。

久住: おお〜、いいですね。

前田有紀

日常の食をより自分らしく、豊かに、心地いいものにしたいです

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前田有紀
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