専門家からのアドバイス

高齢者のお食事について

4段階の食べやすさ
かむ力と飲み込む力に
あった食事を
とりましょう

高齢になると、食べ物をかんだり飲み込んだりする力が衰え、人によっては若いときと同じ状態で食事をすることが難しくなります。食べるという機能にどんな変化が起きて、どんな食事が必要になるのでしょうか。
高齢者の自宅を訪問し、在宅歯科診療を行っている日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの戸原雄医長にお話をうかがいました。

記事の内容や専門家の所属は取材当時のものです。


高齢者の食事、「食べる時間が長くなった」と感じたら注意

歯科医師
戸原 雄先生

高齢になると、体の機能低下にともなってのどの機能も衰えます。在宅の歯科診療をおこなっていると、20代のときと同じ内容の食事をむせながら食べている高齢者が少なくありません。
しかしながら、独居ではなく同居の場合でも、のどの機能が衰えてきた高齢者の食事の状況は正確に把握されていないことが多いのです。

歯科医師
戸原 雄先生

では、高齢者の食事状況を把握するにはどんな点に気を付ければよいのでしょうか。
まずは食事にかかる時間です。「食べる時間が長くなってきた」と感じたら、要注意のサイン。
例えば家庭での食事で「30分、どんなに長くても40分かけても食べ終わらない」という状況は、飲み込む力が弱ってきているといえます。

また、食事中や水を飲んでいるときにせきが出たり、むせたりする場合も同様です。高齢者は「たまにむせているだけ」と認識していますが、実際には「ごはんが食べにくくなり、むせている」状態になっていることが多いです。
食事中にむせることが多くなったら、のどの機能の衰えによって飲み込む力が落ちてきているといえます。テレビを消す、姿勢を整えるなどして食事に集中できる環境で食事をとるようにしましょう。
昔と比べて理由もなく痩せている場合も気をつけてください。食事に時間がかかって食べきれず、必要な栄養がとれていない可能性があります。


「介護食」は誤嚥(ごえん)防止にもなる

高齢で飲み込む力が落ちた方には、色、温度、味をはっきりさせた食事をとっていただくように提案しています。嚥下(えんげ)の反射を起きやすくするためです。
食事の温度は、温かくしたり冷たくしたりするなどして、ぬるめのものは避けるようにしましょう。味は、カレーライスやシチューなどはっきりとしているほうが口に入りやすくなります。

高齢者の食事では、食材を細かく切ったり煮込んだりするなど食べやすくするために食べ物の形態を変えることで、むせることもつまることもなく食事ができるようになる場合があります。

また、介護食はただやわらかくすればよいというわけではなく、かむ力と飲み込む力に合わせて作ることが重要です。
その人自身が持っているかむ力と飲み込む力に合った食事をとることは、現在の力を100%引き出すとともに、現状から悪化しないための訓練にもなるのです。
認知症や神経、筋肉の病気にかかっていない軽度の場合であれば、以前の状態に戻せる可能性もあります。
高齢になると歯がなくなっていき、食べ物を飲み込みやすい大きさまでかむのが難しくなります。また、唾液の量が減って飲み込む力が弱くなり、さらにのどの筋力も低下するため、タイミングよくゴックンと飲み込むのが難しくなります。
飲み込む力が衰えると、食べたものが食道ではなく誤って気管や肺に入ってしまい、食べ物と一緒に飲み込んだ細菌が誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こしやすくなるのです。
誤嚥を防ぐためには、かむ力と飲み込む力に合った食事をとることが大切ですが、それぞれの方に合わせた介護食を家で準備するのはなかなか大変です。


思うように食事づくりができないときは、「やさしい献立」を

在宅診療で、高齢者の介護をしている方々とお話をすると「食事は自分で作ってあげたい」と考えている方が多いですね。「食事を作ることが生きがい」ととらえられている方もいます。
しかし、毎日調理をするのはとても大変です。私はいつも「調理をする手間、労力を別のことのために使ってあげたらいかがでしょうか」とお話します。
自分で一品作って、キユーピーの介護食「やさしい献立」のような市販用介護食を足すといった使い方もあると思います。

また「やさしい献立」は、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」と、食べる力を4つの段階に分けて作られている点がとても使いやすいと思います。
市販用介護食を使うことでかむ力と飲み込む力に合った食事を用意でき、食事中にむせるという悩みを大幅に軽減できる可能性があります。

患者さんの中には、毎日同じものを食べたり、栄養ドリンク剤を欠かさず飲むなど、偏った食事をしている方がいらっしゃるのですが、ご自身の食べる力を最大限引き出した食事は高齢者にとって非常に大切だと考えています。
人生の中で貴重な一回一回の食事が、介護する人とされる人の双方にとって楽しい時間に変わっていけばと願っています。

POINT

かむ力と飲み込む力に
あった食事を

  • 食事時間が長くなってきたら、のどの機能の衰えのサイン。
  • 高齢で飲み込む力が落ちた方には、色、温度、味をはっきりさせた食事を。
  • 介護食では、かむ力と飲み込む力に合った食事をとることが大切。
  • 機能性があり準備のしやすい市販用介護食もオススメ

家族が大変にならない
介護食づくりを

管理栄養士 中村 育子先生

食をテーマにした講演会

食生活と健康についての正しい情報の提供を目的として、1984年から開始しています。
高齢化が進み、単身世帯が増加する現代社会において、留意すべき事柄をわかりやすく説明する講演会として、食生活と健康についての正しい情報提供のための講演会を開催しています。