みんなの介護 お悩み座談会

後編: 後編:介護食にまつわる
お悩み相談

座談会後編では、前編につづき自宅で家族を介護中の参加者3人が、訪問管理栄養士の中村育子先生に日頃の食事の悩みや疑問を相談しました。

※記事の内容や専門家の所属は取材当時のものです。

(写真左から)
石坂さん、藤平さん、中村先生、安井さん

石坂さん
石坂さん

約1年前から「要介護5」の母を自宅で介護
家族の状態:嚥下機能が弱まり、医師からはソフト食をすすめられている。ペースト状の食事を手作りしているが、本人は嫌がっているので、少しでもかみ応えのあるものを食べさせてあげたい。

藤平さん
藤平さん

約8年前から「要介護2」の義理の母を自宅で介護
家族の状態:食事は「歯ぐきでつぶせる」くらいのやわらかさ。本人が嫌がるため、入れ歯を作れていない。食事は完全にやわらかいものを手作りしている。

安井さん
安井さん

約10年前から「要介護4」の母を自宅で介護
家族の状態:認知症でまわりの人のことをあまり認識できていない。介護を自宅で行なうことに限界を感じ、現在は施設で夕食まで食べてから自宅に戻る生活。


糖尿病のおやつ

中村先生みなさん、介護食について悩んでいることはありますか?

安井さんうちの母は糖尿病もあるので、糖分の摂りすぎが気になっています。ただ、「おいしい」と言ってもらえるとうれしいので、よくデザートで甘いものを食べさせています。糖分が心配でダイエットシュガーを使ったものなどを選ぶのですが、「おいしい」と言って食べてくれるのは普通の甘いものです。どちらがいいかと悩みながらデザートを用意するのですが、実際のところ大丈夫でしょうか?

中村先生お母様の普段の食事はペースト状ですよね。ペースト状の食事は水分量が多いので、通常の食事よりも栄養価が少ないんです。なので、食事の補完としておやつをあげるという考えもあります。
 糖尿病の方にオススメのおやつは、食事で摂れない芋類、ヨーグルト、チーズ等の乳製品などです。砂糖を多く使用したチョコレート、アメ、菓子パン等の食品は、摂取すると血糖値が上昇します。一度かかりつけの医師に、糖尿病の病状やおやつの種類・量などの詳細をご相談してみてください。

藤平さんデザートと言えば、母はくず湯を「おいしい」と言ってよく飲んでいます。寒いときによく飲みます。中でも抹茶味のくず湯はお気に入りです。

中村先生くず湯はいいですね。ツルっとしてのどに入りやすいので、好まれる方が多いです。くず粉をうまく使うことで、水分を摂取できるといいですね。食事に関して、他にもお困りのことはありますか?


食事の幅を広げる

石坂さん母は自宅で作ったかぼちゃの煮物が好きで喜んで食べていたのですが、以前入院したときに、かぼちゃなどの具材をどんなに柔らかく煮込んでも、誤嚥の可能性があるとのことで、繊維のある野菜は止めてくださいと言われてしまいました。そのとき病院で指導されたお味噌汁は、具なしでした。できれば好きな具材を入れてあげたいのですが。

中村先生そうですね。具材感のある食事にしてあげたいですよね。一度病院で、お母様の嚥下機能の評価を受けてみるといいかもしれません。大勢で食事をする病院や施設ですと、なかなか一人ひとりの状態に合わせて食事を提供するのが難しいケースがあります。個人としての嚥下機能の評価を受けると、例えば「ペースト状であれば食べられる」といったことがわかる場合があります。それがわかれば、ご自宅での食事で、食べられる幅が広がるかもしれませんよ。
 また、多くの方々がそれぞれのご家庭の味や、慣れた味を持っています。施設の味が合わないと感じるときは、しょうゆなど調味料を使って味を少し変えてあげると、食べられるようになる方もいらっしゃいました。食べ慣れた味や好みの味を確認してみるといいでしょう。


レトルトの介護食

安井さん10年間の介護生活で、いろいろ乗り越えて来ましたが、母が 「要介護2」「要介護3」のころは、介護うつになりかけました。当時は忙しすぎて市販の介護食を探している時間もなかったですし、介護食についての情報を得る手段もありませんでした。少し余裕ができてから、自治体主催の介護者の会に参加したんです。最初の半年くらいは毎回号泣していたんですが、同じ悩みを持った人たちと話すことで、気持ちが軽くなっていきました。今は私自身が介護者の会を運営する側にいるので、メンバーのみんなに「やさしい献立」を紹介したいです。ただ、そもそも介護が忙しくて介護者の会に参加できない人もいると思うので、そういった人たちを救いたいなと思っています。

藤平さん私も、認知症のカフェを地域の包括支援センターと一緒に開いています。そこで思うのは、レトルトの介護食を知らない方が多いということです。認知症カフェは毎月開催しているので、一度、試食会を開いて、みんなにすすめたいです。

安井さん自分もそうでしたが、食事は自分で作らないと罪悪感があるって方がいますよね。試食会などで実際に食べる機会があれば、レトルトの介護食も使う方が増えていくと思います。

中村先生ありがとうございます。では藤平さんと石坂さん、最後に一言いただけますか?

藤平さん私の場合、子育てをして40代で社会に出てやっと自分のキャリアができたと思ったら、義母の介護に突入しました。仕事をしながら介護食の準備をするのはとても大変で、なかなか心に余裕がない日々が続きました。「やさしい献立」のような介護食を利用すれば、以前よりも短い時間で食事の支度ができるので、本当に心強いなあと思いました。

石坂さんうちの母は今が一番いい状態で、これからどんどん悪くなると思います。なので、将来については漠然とした不安がありますが、今は母が食感を楽しんだり、おいしいと感じたりできることを大切にしたいと思っています。

中村先生そうですね。私は日頃患者さんと接する中で、介護する方々の負担を大きくしてはいけないと感じています。介護をする方が疲れていると、介護を受けている本人にも疲れが伝染してしまいますから。
 現在子育て世代のお母さんたちは時短料理に慣れていて、むしろレトルトや冷凍食品を上手く使う方々が多いんですよね。なので今後は「やさしい献立」のような介護食をうまく使って、時短で準備する方々が増えてくるのではと思っています。「全部手作りしなきゃ!」とか思いすぎなくていいんです。みなさんの話を聞いて、介護をする方々にも大切な自分の時間を持ってほしいと改めて思いました。本日は、ありがとうございました。


前編: 素材を活かしたおいしさ

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